前回は、「心理学の誕生の歴史」というテーマで、哲学から心理学が独立するまでの歴史と、心理学がどのようにして誕生したのかについて紹介しました。
ヴントは心理学の誕生やその後の発展に大きな影響を与えた人物で、意識を研究対象として内観法を用いて研究を行っていましたが、ほかの心理学者から批判をされることとなります。
今回は、ヴントの意識心理学を批判することにより、大きく発展することとなった心理学の3大潮流を紹介します。
意識を研究したヴントの要素主義とそれに対する批判
ヴントの心理学の特徴

ヴントはドイツの心理学者で、1879年にライプツィヒ大学に心理学実験室を開設しました。この心理学実験室の開設によって、心理学は哲学から独立して、科学的な学問となりました。
心理学の誕生と発展に貢献したヴントは、「近代心理学の父」や「実験心理学の父」と呼ばれていますが、ヴントの主張を批判する心理学者もいました。
ヴントは「意識」を心理学の研究の対象としていて、複雑な意識現象も単純な要素に分解できる(要素主義)と考えました。
そして、意識の構成要素を明らかにするために、自分自身の意識を自己観察して、感覚や感情などの心的状態について報告をしてもらう「内観法」という方法を用いて研究を行っていました。
ヴントは研究対象が「意識」であること、「意識を要素に分解できる」と主張したこと、「内観法」という研究方法を用いたことが特徴ですが、これらの主張はほかの心理学者から批判を受けることになります。
ヴントの主張が批判された理由

ヴントの主張が批判された理由は、研究対象への批判と要素主義への批判に分けることができます。
行動主義心理学からの批判
アメリカの心理学者であるワトソンは、1913年に「行動主義者の見た心理学」という論文を発表して、行動主義心理学を提唱しました。ワトソンは、心理学は客観的に観察できる「行動」を研究対象にするべきだと主張しました。
またヴントの「内観法」は、意識を自己観察して、感覚や感情などの心的状態を報告してもらう方法であるため、被験者の主観が入りやすく、客観性に欠けるとワトソンは考えたようです。
内観法は会話ができる人に限られるため、言語化できない子どもなどに行うことはできませんでした。そのほか、虚偽の報告がされることや誇張した内容を話される可能性もあることから、データの信憑性に欠けるという点もありました。
行動主義心理学は、意識ではなく「行動」を研究対象とするべきであるという点と、客観性に欠けている内観法は科学的ではないということで、ヴントの主張を批判しました。
精神分析学からの批判
ジークムント・フロイトは、意識だけでは不十分であるとして、ヴントを批判しました。フロイトは精神分析を創始した精神科医で、臨床心理学の発展に貢献しました。
フロイトは、無意識の中にたくさんの知識や情報があると考え、「無意識」についての研究を行っています。
ゲシュタルト心理学からの批判

ゲシュタルト心理学は、ヴントの複雑な意識現象も単純な要素に分解できるという「要素主義」の考え方を批判しました。
ゲシュタルトとは、ドイツ語で「形」や「形態」という意味です。
ゲシュタルト心理学は、意識現象の本質は、細かい要素の寄せ集めではない。全体性や構造を重視するべきであると主張しました。人が何かを認識するときに、全体的な枠組みや構造を重視するという考え方です。
よく挙げられる例として、音楽を聴くときに音符を一つ一つ認識するのではなく、全体のリズムやメロディーを聴いて、一つの音楽(曲)として認識するということです。
ひとつの音(要素)ではなく、リズムやメロディー(全体)が本質である。つまり意識現象も、要素では説明することができないため、全体を重視する必要があると主張しています。
ゲシュタルト心理学は、認知心理学や社会心理学に影響を与えました。