アルフレッド・アドラーの「個人心理学」 5つの特徴と劣等コンプレックス

アドラー 個人心理学

フロイトの研究会に参加していたアドラーは、フロイトの精神分析の影響を大きく受けた心理学者です。

しかし、フロイトの考え方に共感できずフロイトと決別、独自の理論を発展させて「個人心理学」を創始しました。

2013年に出版された『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』という書籍はロングセラーとなり、アドラーは日本で一躍有名になりました。

今回は、アドラーが「劣等感」を重視するきっかけとなった生い立ちから、アドラー心理学の5つの特徴について紹介していきます。

アドラーの個人心理学

アドラーの生い立ち

1870年にオーストリアのウィーンで、6人兄弟の次男として生まれました。

アドラーは、幼い頃に「くる病」で身体を自由に動かすことができない時期がありました。そのため、活発だった兄ジークムントに対して劣等感を抱いていました。

「人間であることは、劣等感を持つことである」という彼の言葉は、幼い頃に経験した苦悩が反映されたものかもしれません。

アドラーが4歳のときに弟がジフテリアで亡くなり、翌年にはアドラー自身が重い肺炎になって生死の境をさまようという大変な経験をしました。

自分自身が病気がちだったことや弟を亡くした辛い経験から、医師になりたいと思うようになったそうです。

学生の頃は、苦手な数学でみんなが解けない問題をアドラーだけが解くことができて、その成功体験のおかげで数学が得意になったようです。そして、「努力すればなんでも成し遂げることができる」と考えるようになりました。

1895年にウィーン大学医学士を取得して、1898年に内科医として診療所を開設しました。

第一次世界戦中は、軍医として従事して戦争神経症などの兵士の治療に当たっていました。

アドラーは治療を終えた若い兵士を戦場へと送り出すことが苦痛でしたが、この経験から「共同体感覚」の理論を生み出しました。

劣等コンプレックス

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アドラーは人を動かすエネルギーは、他人より優れていたいという「優越欲求」であると考えました。

「子どもは他者に大きく依存した環境の中で、劣等感を抱えながら成長する。 そして、「私たちの身体には誰でもひとつやふたつ思いどおりにならない器官があって、それを原因とする身体的な脆弱性にみんな苦しんでいる」という考えから、 アドラーは「器官劣等性」という概念を提唱しました。

アドラーは、劣等感を克服しようとする働きである「補償」を重要視しました。「補償 / 代償」はフロイトが提唱した防衛機制の一つで、不得意なことをほかのことで補おうとすることです。

この補償によって、人間は自己実現をすることができ、器官劣等性を乗り越えることができると考えました。

アドラーは劣等感をポジティブに捉えていて、劣等感を言い訳にして人生の課題から逃げることは不完全であると言いました。劣等感を成長のための原動力とすることで、自信や生きがいに繋げることができるとしました。

劣等感に固執して自分や他人に言い訳をすること「劣等コンプレックス」と呼びます。また、劣等感を隠すために他人に対して自分を誇示することを「優越コンプレックス」と言います。

人間が抱える悩みのほとんどは対人関係で、解決するためには自分が克服するべき課題と、他人が克服すべき課題を明確に分離することが大切だと主張しました(課題の分離)。

フロイトとの相違点

ジークムント・フロイト 精神分析 アドラー 心理学

1902年にフロイトに招かれて、アドラーは研究会に参加しました。

フロイトは外向的な性格をしていましたが、アドラーは内向的で控えめな性格でした。

フロイトは当初、リビドー(性欲動)が人間を動かしていると考えていましたが、アドラーはそれが必ずしも重要なものであるとは考えていなかったため、フロイトの主張に賛同できなかったようです。

フロイトは人の行動の原因に着目する「原因論」の立場であるのに対して、アドラーは人は何かの目的を達成するために感情を使っているのだと考える「目的論」を重視しました。

また、フロイトは思考と感情、意識と無意識は人の中で対立するものだと考えたのに対して、アドラーは思考や感情は目的遂行のために機能するもので対立しているわけではないとしました。

フロイトの弟子で、アドラーと同じく後にフロイトと決別したユングは、無意識を重視しましたが、逆にアドラーはフロイトの理論が無意識に偏ることを嫌がって、意識レベルの葛藤を重視しました。

1911年にフロイトのウィーン精神分析協会を脱退して、自由精神分析協会を設立しました。

アドラー心理学の5つの特徴

目的論

過去の経験やトラウマ、感情が原因になって行動を起こすという考え方を「原因論」、感情は過去からの影響ではなく、現在の自分が目的を達成するために、感情を利用しているという考え方を「目的論」と言います。

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「犬を避ける行動をする人」がいると仮定して、両者の違いを見ていきましょう。

原因論では、「小さい頃に犬に噛まれた(過去の経験)」という恐怖体験をしたことが原因で、大人になっても犬に対して恐怖を抱くため、犬を見たら逃げるようになると考えます。

目的論では、犬が何となく好きではないから近づきたくない、誰かと関わる気分ではないなどの理由があるため、犬を見て「怖い」という感情を引き出す(利用)ことで、犬を避けるという行動を選択したと考えます。

フロイトの原因論アドラーの目的論
時間の方向過去→現在現在→未来(目的達成)
視点過去が現在を決める未来(目的)が現在を決める
考え方
捉え方決定論(過去の経験に支配されている)自由意志 / 自己決定的(未来は変えられる / 自分で選択して決定する)
トラウマ過去のトラウマを重視過去のトラウマの存在を否定
重視しているもの抑圧された感情やトラウマ(心的外傷)人が変わるための勇気

人は自分の思うとおりにならないとき、「お金がないから…」「環境に恵まれなかったから…」「親が反対したから…」と自分以外のせいにしてしまうことがあるかもしれません。

アドラーは、これらの言い訳を「人生の嘘」と呼び、自分にとって重要な目的を見つめ直して、目標を達成するときにぶつかる壁を乗り越えるために、自分を勇気づけるべきであるとしました。

認知論

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人は自分の主観で世界を見ているという考え方を「認知論」と言い、客観的事実よりも個人の主観的認知を重視します。

人によって同じ出来事があったとしても捉え方は違うため、どのように認知(意味づけ)しているかを知ることが重要であると考えました。

例えば、雨が降ったという出来事があったとします。

人によっては、濡れるから嫌だ、傘を持っていくのがめんどくさい、運動会が中止になったなど、ネガティブな印象を抱くかもしれません。

しかし、作物が育つ恵みの雨だ、雨の音でリラックスできる、空気が澄んで虹も見えるから楽しみなど、ポジティブな感情を持つ人もいます。

作物を育てるために恵みの雨となる農家さん、通勤が大変になってしまう会社員さんなど、職業や住んでいる地域によっても「雨」に対しての印象も違うかもしれません。

もちろん、どちらの感情を抱いても正しい、間違っているという訳ではありません。

清少納言の枕草子には、「雨など降るもをかし」というフレーズがありますが、「雨が降るのも趣があっていいな!」と雨を楽しむこともできるので、どのように認知するか次第と言えそうです。

主体論

どのような人生を送るか選択するのも、その責任を取るのも自分自身であるという考え方を「主体論」と言います。

アドラーは、「重要なことは、人が何をもって生まれたのかではなく、与えられたものをどう使うかである」と言っていて、自分が持っている素質を人生でどのように使うのかを重要視しました。

また、人は自分の人生を自由に選んで選択して決定することができるという考え方のもと、「人間は自分自身の人生を描く画家である」としました。

人生は過去に縛られたものではなく、未来は変えることができるため、自分の運命を切り開いていく決意と勇気を持つことが重要であるとアドラーは考えていました。

全体論

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フロイトは、心をエス・自我・超自我に分ける構造論を提唱しましたが、アドラーは個人を分割できない最小の単位で、統合された一つの存在であるとしました。これを全体論と言います。

超自我は自我とエスを抑制していて、自我はエスを抑制しているため、心の中では対立が生じているとフロイトは考えました。

一方で、アドラーは思考や感情は目的の達成のために機能するものであるため対立はしないと考えました。

対人関係論

人間が抱える悩みのほとんどは対人関係であると考えたアドラーは、人間は他者と相互作用を重視しました。

個人の行動を理解するためには、その人が相手とどのような関係になっているかを調べることが必要だとしました。

まとめ

今回は、アドラーと個人心理学の特徴をざっくりと紹介しました。

アドラーは、「共同体感覚」や「ライフスタイル」という考え方を提唱していて、アドラー心理学を理解するときにも重要な内容ですが、長くなってしまったので、また次回紹介させていただきたいと思います。

また次回もお楽しみに!

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